ここでは世界神話の起源をみていく。神話を解き明かす危険性を述べたうえで、本論の洪水伝説へと入る。
■序文:神話を解き明かす危険性
本記事では神話の洪水伝説を単純化し論じ、神話を解き明かしていく。しかしこれは危険を伴う。歴史を持つ国にはどの時代のどの民族にも神話がある。神が人間に語りかけ、人間が神に語りかけ、神がそれに答えるという物語だ。そしてその物語の中には先人の智慧が詰め込まれている。神からの警告もみられる。確かに「大洪水」や「川の氾濫」そして「津波」など身近な、あるいはコントロールできないものであった。しかし人々はそのような抗えない自然との闘いを通して、人々は神に感謝し、そしてまた日常を大切に生き、より良くしようと知恵を働かせ、発展してきた。つまり、カミとヒトはいつも共にあった。まずこの認識を前提としたうえで単純化する。
■本論:世界の神話と洪水伝説
「神話」を探っていくと「洪水」と出会う。特に有名なのは旧約聖書の「ノアの洪水伝説」だ。そこで「洪水」に着目しながら世界の神話共通項を調べた。すると神話どうしのある関係性に気づくことになるはずだ。世界は多種多様だ。起源も異なる。それでも世界には共通点がある。
■神話の定義
沖田瑞穂氏の著作「世界の神話」を参考とした。沖田氏は「神話の定義」を濁していた。あえて表現するならとした上で「神話とは、聖なる物語である(であった)」と表現された。この言葉の意味は非常に深くまた人によってとらえ方も異なると思う。私見だが神話とは民族に「継承」することが前提だと思う。だから史実性と物語性は混在する。後の別記事、古事系の話にも関係する。なぜなら、例えば3,000年の続く歴史のある国だった場合、1世代30年の単純計算で100人英雄が存在すると困る。ストーリーテラーが覚えきれない、伝わらない。そういう意味ではギリシャ、日本の神話は登場人物も多く、多様性のある、人間味のある神話を生み出したのだろう。
■世界の神話
世界には主に次の①~⑪の神話がある。各民族までわけるとそれこそ数えきれないほどある。
①メソポタミアと周辺の神話
・メソポタミア、パレスチナ
②インド
・バラモン教、ヒンドゥー教
③エジプト、アフリカ
・エジプト、西アフリカ・ベナン・フォン族
④ギリシア
⑤ケルト
⑥北欧
⑦インドネシア
⑧中国
⑨オセアニア
・ミクロネシア・メラネシア、オーストラリア・アボリジニ
⑩中南米の神話、北米
・中南米、北米
⑪日本(古事記)
■洪水伝説を持つ神話
上記の書籍のうち「洪水伝説」があるのはメソポタミア、パレスチナ、インド、ギリシア、中南米(アステカ)であった。うち、メソポタミア、パレスチナ、インド、ギリシアの洪水伝説を紹介していく。
■メソポタミアの洪水神話
神々は嵐の神「エンリル」の提案により大洪水を起こすことにした。数の増えた人間を滅ぼすことにしたのだ。ウトナピシュティムはエア神よりその内容を知らされ、大きな箱の形をした船をつくることにした。そしてその船に全ての生き物の雄と雌を入れた。そして家族とともに船へと乗り込んだ。その次の日から6日と6晩の間、大洪水が地上を襲うことになる。箱舟はニシル山の上に止まった。ウトナピシュティムはまず鳩を放った。しかし鳩は舟に戻ってきてしまう。次に燕を放つ。結果は同様だった。今度は烏を放つ。すると今度はそのまま帰ってこなかった。ウトナピシュティムこれを水が引いたと判断し、みなは船から出ることにした。
■旧約聖書・パレスチナの洪水神話
ノアが600歳のときに洪水が起きる。神さまはノアに箱舟をつくらせる。ノアは妻子や命あるものをつがいで舟に乗せた。洪水は40日間続いた。水は150日間も地上に留まった。箱舟はアララト山の上にとまった。
■インドの洪水神話
人間の祖先にマヌがいた。マヌが水を使っていたときのこと。一匹の魚がやってた。その魚は「やがて洪水が起こって生き物たちを全滅させるであろう」と予言をした。そしてマヌに「助けてやるから飼ってくれ」と頼んだ。やがて魚は大きくなった。マヌは魚を海に放ってやることにした。魚はお礼に、洪水が起こる年をマヌに教えた。そして次のようにアドバイスした。洪水が起こったら船に乗り、そして自分から離れずついてくるように。そして洪水が起る。マヌは船に乗った。すると魚が近づいてきました。マヌは船に魚をつないだ。魚はヒマラヤについた。そしてマヌを降ろした。洪水がすべての生き物を滅ぼした。しかしマヌだけは生き残った。
■ギリシアの洪水伝説
ゼウスは邪悪な人間を滅ぼそうとしていた。プロメテウスの息子、デウカリオンはピュラと結婚した。ゼウスは地上に大雨を降らせ大洪水を引き起こした。しかしデウカリオンとピュラはプロメテウスから教えられ、造っていた箱舟に乗った。洪水を免れることができた。
上記にあげた洪水伝説は似ていることがわかる。つぎに原型となったとされるメソポタミアを詳述する。そのほかの国については要点を示す。
■メソポタミア
メソポタミア文明はティグリス川とユーフラテス川流域に栄えた古代文明。紀元前3,000年にシュメール人が楔形文字を考案した。シュメール語によって粘土板に神話を刻んで残した。1872年、アッシリアの考古学者ジョージ・スミスは大英博物館にある粘土板の中に洪水伝説が記されていることを発見した。それが「ギルガメシュ叙事詩」だった。この内容は聖書の内容と酷似していた。世界に衝撃が走った。旧約聖書のもとがギルガメシュ叙事詩とわかったからだ。※「叙事詩」とは、英雄の功績などをうたいあげた詩のこと。ギルガメシュ叙事詩は世界最古の叙事詩である。
■パレスチナ
旧約聖書の創世記の中で「ノアの洪水」が記されている
■インド
「ブラーフマナ」に洪水神話が記されている。紀元前1000年~500年頃に成立したとされる文献。
■ギリシア
デウカリオンの洪水の話が存在する
■まとめ
・世界に現存する最古の洪水伝説はギルガメシュ叙事詩で原型となっている
・ギリシア、パレスチナ、インドなどの洪水伝説はギルガメシュ叙事詩と共通
■感想
・洪水伝説はシュメールの民が様々な理由から移動、伝承したのだろうか
・ユダヤ的なるものは実はシュメール的なるもの
・調査時、中南米の神話は似ておらず、発想の異なる系統だと感じたので割愛
<参考>
・世界の神話 沖田瑞穂