シン・ニホンシ

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239.古代の宮㉓~雄略天皇(十二):木工韋那部真根と采女の相撲、真根を救った同伴巧者たち~

今回はシリーズ第23弾、雄略天皇・12回目を紹介する。「韋那部真根」を惑わす采女の相撲、そしてその真根を救った仲間の巧みたちのエピソード回次の流れで紹介していく。

・木工の韋那部真根
采女の相撲
・同伴巧者(あいたくみ)の嘆き
・甲斐の黒駒(かいのくろこま)
・まとめ

■木工の韋那部真根

即位13年9月(秋)。

木工韋那部真根(こだくみいなべのまね、木工職人)は石を質(あて、木を削る基礎の台)として手斧をとって木を削った。
終日(ひねもす)削っても、誤って刃を傷つけることがなかった。

天皇はその木工の作業場へ遊詣(いでま)して、不思議に思って尋ねた。
「誤って石にあててしまうことはないのか」

真根は答える。
「決して誤ることはない」と。

采女の相撲
天皇采女(うねめ)を呼び集めた。
衣裙(きぬも)を脱がせ、著犢鼻(たふさぎ、陰部を覆って隠す、ふんどしの意)にして、人の見ているところで相撲(すまひ)を取らせた。

真根は作業を中断した。
そして相撲を見ながら削った。
手が誤り、刃が傷ついた。

天皇はそれを責譲(せ)めて言う。

「どこの誰であろうか。朕(われ)を畏れずして 貞(ただ)しからぬ心をもって 妄(みだりがわ)しく ただちに答えたのは」

■同伴巧者(あいたくみ)の嘆き
これをもって物部(もののべ、刑史のこと)に預けて、野で刑を実行した。
ここに同伴巧者(あいたくみ、仲間の工匠)がおり、真根のことを嘆き、惜しんで、作歌(さくよみ)して言った。

あたらしき
韋那部の工匠(いなべのたくみ)
かけし墨縄(すみなわ)
其(し)が無けば 
誰(たれ)かけむよ 
あたら墨縄(すみなわ)

意味:
もったいない。
韋那部の工匠が使った墨縄は。
彼がいなければ、誰がかけよう
もったいない、あの墨縄よ。
※墨縄は大工が直線を引く際に用いる道具、定規のような役目

■甲斐の黒駒(かいのくろこま)
天皇はこの歌を聴き、悔い改めて喟然(なげ)いて頽歎(なげ)いて言う。
「幾(ほとほど)に人を失いつるかな」

天皇は真根を赦す(ゆるす)ための使いを送る。

甲斐の黒駒(かいのくろこま、甲斐から産出した良馬)に乗り、馳せて刑所に行き、刑の実行を止めて赦した。

徽纒(ゆわいづな、真根を縛って結わっていた縄)を解いた。

また作歌(うたよみ)して言う。

ぬば玉の
甲斐の黒駒(かいのくろこま)
鞍(くら)きせば
命死なまし
甲斐の黒駒

意味:
甲斐の黒い馬にもし鞍をつけていたなら、たぶん韋那部の工匠は間に合わず、死んでいただろうなぁ。

■まとめ
・木工韋那部真根(こだくみいなべのまね)は優秀な技術者
・木工韋那部真根は決して誤って刃を傷つけることはないと雄略に答えた
・雄略は木工韋那部真根の前で采女に相撲を取らせる
・韋那部真根は誤ってしまう
・韋那部真根に木工(あるいは石工)の同伴巧者(あいたくみ)がいた
・甲斐の黒駒が登場する
・使者が甲斐の黒駒に鞍もつけずに急ぐことで真根への刑の実行を阻止することができた

■感想
采女に相撲をとらせるという不思議な設定の回。
・韋那部真根(いなべまね)の真根はマネー?
・木工、あるいは石工のギルドがいる?
・甲斐にて黒駒を育てていたことが示されている

<参考>
日本書紀(三)岩波文庫