シン・ニホンシ

日本の歴史を新しい視点でとらえ、検証し、新しい未来を考える

321.罪問わず血を王へ~イザナギが禊の際に脱いだ衣服などから生まれた12神と古事記と日本書紀の秘密~

古代において小国が乱立、やがで大王が現れ、古墳時代を経て律令国家体制が築かれていった。それらの権力闘争の存在はまぎれもない事実だがはっきりと示されることは少ないため不明確である。古事記日本書紀の成立においても編纂者たちの背景にある権力による対立があるとみられる。

今回取り上げるのはイザナギの禊で生まれる12神。黄泉の国から帰還したイザナギは、穢き(きたなき)国でケガレが生じたため、禊(ミソギ)を行う。その際に衣服を脱ぎ、アクセサリーをはずす。その時に12神が生まれる。この神々に隠されたメッセージとは。次の流れで紹介していく。この新解釈は日本の文献史学上初出と思われる。

イザナギが禊にて身につけたるものを脱いで生まれた神々
日本書紀における神々
古事記日本書紀の差異
古事記が暗示した闘争の歴史
日本書紀が返した古事記へのメッセージ

イザナギが禊にて身につけたるものを脱いで生まれた神々
次の12神がいる。

1.衝立船戸神:ツキタツフナトノカミ
 御杖より生まれる

2.道之長乳歯神:ミチノナガチハノカミ
 御帯(ミオビ)より生まれる

3.時量師神:トキハカシノカミ
 御嚢(みふくろ、御袋)より生まれる

4.和豆良比能宇斯能神:ワヅラヒノウシノカミ
 御衣(ミケシ)より生まれる

5.道俣神:チマタノカミ
 御袴(ミハカマ)より生まれる

6.飽咋之宇斯能神:アキグヒノウシノカミ
 御冠(ミカブリ)より生まれる

そして左の御手(ミテ)の手纏(たまき、腕飾り)からつぎの3神が生まれる

7.奥疎神:オキザカルノカミ

8.奥津那芸佐毘古神:オキツナギサビコノカミ

9.奥津甲斐弁羅神:オキツカヒベラノカミ

右の御手(ミテ)の手纏(たまき)からつぎの3神が生まれる

10.辺疎神:ヘザカルノカミ

11.辺津那芸佐毘古神:ヘツナギサビコノカミ

12.辺津甲斐弁羅神:ヘツカヒベラノカミ

日本書紀における神々

日本書紀の禊では次の神々が生まれる

・岐神:フナトノカミ
 杖より生まれる

・長道磐神:ナガチハノカミ
 帯より生まれる

・煩神:ワヅラヒノカミ
 衣(ミソ)より生まれる

・開囓神:アキグヒノカミ
 袴より生まれる

・道敷神:チシキノカミ
 履(クツ)より生まれる

・道返大神:チガヘシノオオカミ
  泉津平坂(よもつひらさか)の泉戸(よみど)を塞ぐ大神と解釈されている。

古事記日本書紀の差異 

古事記日本書紀ではどのような差異があるだろうか。

名前が変わっているだけのように見られる神もいる。

衝立船戸神」は「衝立(ツキタツ」がなくなり「岐神(フナトノカミ)」となる。

和豆良比能宇斯能神は煩神(わずらいのかみ)となる。

時量師神(トキハカシノカミ)はみられない。

袴からは古事記では道俣神(チマタノカミ)が生まれるが、日本書紀では開囓神(アキグヒノカミ)となる。

奥津(オキツ)、辺津(ヘツ)の6神は削られる。

道返大神(チガヘシノオオカミ)が加えられる。

これらは何を意味するのだろうか。

古事記が暗示した闘争の歴史

古事記の12神の神々を改めて掲載する。

1.ツキタツフナトノカミ
2.ミチノナガチハノカミ
3.トキハカシノカミ
4.ワヅラヒノウシノカミ
5.チマタノカミ
6.アキグヒノウシノカミ
7.オキザカルノカミ
8.オキツナギサビコノカミ
9.オキツカヒベラノカミ
10.ヘザカルノカミ
11.ヘツナギサビコノカミ
12.ヘツカヒベラノカミ

12神の名前の最初の文字を表すと次のようになる。




ワヅ

(ア)




(ヘ)ツナギ
(ヘ)ツカヒ

これを選び取る。すると、

「罪問わず、血を王へ」と解釈できる。

これだけだと、単なる言葉遊びではないかと思われるかもしれない。
この古事記のメッセージに対して日本書紀が次のように返している。

日本書紀が返した古事記へのメッセージ

日本書紀を編纂した勢力はおそらくこのメッセージに気づき、
次のように返答したとみられる。

再度古事記から日本書紀への変更点を編纂者の視点で記すと次のようになる。

・(ツキタツ)フナトノカミは「ツキタツ」を取る。
・(ミチノ)ナガチハノカミは「ミチノ」を取る。
・(トキハカシノカミ)は削る。
・ワヅラヒノウシノカミは漢字を和豆良比能宇斯能神から煩神とする。
・袴から生まれた(チマタノカミ)を削り、代りにアキクヒノカミとする。
・チシキノカミを加える。
・奥津(オキツ)、辺津(ヘツ)の6神を削る。
・最後に、チガヘシノカミを加える。

上記の日本書紀が加えた変更点は大きく3つだろう。

・「罪問わず血を王へ」のメッセージを不成立とさせる

・オキツ、ヘツの6神を削る

・チガヘシノカミを加える。
血返し、血替えしという意味ではないか。

稗田阿礼がメッセージを受け、太安万侶が筆記、成立させた「古事記(フルコトフミ)」と日本書紀での違いは上記となる。

ところで、オキツ、ヘツとは。
次の回にて紹介していく。

<参考>
・新版古事記 現代語訳付き 中村啓信訳注
日本書紀(一)岩波文庫
道之長乳歯神 – 國學院大學 古典文化学事業
道反之大神 – 國學院大學 古典文化学事業
飽咋之宇斯能神 – 國學院大學 古典文化学事業