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299.天王日月の銘のある三角縁神獣鏡

三角縁神獣鏡の定義は縁が三角になっていることだが、文字や文様によるパターンが多数存在、定義が難しく分類するにはあいまいなところがある。そこで、三角縁神獣鏡の中でも文字の入った「天王日月」の銘の入った鏡を紹介する。次の流れで紹介していく。

・天王日月(てんのうにちげつ)の銘の入った鏡
・1.石塚山古墳(福岡県)
   ・宇原神社
・2.赤塚古墳大分県
・3.竹島御家老屋敷古墳山口県
・4.備前車塚古墳岡山県
・5.椿井大塚山古墳(つばいおおつかやまこふん、京都府)
・6.花野谷1号墳(はなのたに1ごうふん、福井)
・7.新山古墳奈良県
・8.佐味田宝塚古墳奈良県
・9.円満寺山1号古墳岐阜県
・10.上平川大塚古墳静岡県
・11.白山古墳(神奈川県)
・12.森将軍塚古墳(長野県)
 ・長野県千曲市倉科・大日堂園地の万葉歌碑
・まとめ
・注:三角縁神獣鏡の分類

■天王日月(てんのうにちげつ)の銘の入った鏡
魏から卑弥呼がもらった鏡は100枚との記述が魏志倭人伝に載っている。
一方、「三角縁神獣鏡」は現在では数百枚が発見されている。
そのため
・舶載鏡(中国から船で持ち込んだもの)なのか
・仿製鏡(ぼうせいきょう、日本国内でつくった鏡)なのか
という区別のための議論が発生している。

そのような中「天王日月」の銘のある鏡がある。

この天王日月を文字から類推すれば、
・天の王(=天の遣い)
・日の民
・月の民
の意味が込められているように思う。

そこで、この「天王日月」に焦点を絞り、古墳から出土したエリアや建造年代ををみていくとどうなるか。

鏡をもらった年代と、埋葬された年代は異なるが、それでも古墳時代を知る手掛かりとなるだろう。

↓は文化遺産オンライン、上平川大塚古墳出土の天王日月の銘の入った三角縁神獣鏡

bunka.nii.ac.jp

■1.石塚山古墳(福岡県)
所在は福岡県京都郡苅田町
鏡は三世紀後半から四世紀初頭のものとされる。

古墳の築造は4~5世紀と推定されている。

天王日月の銘のある鏡として、
・天王日月獣文帯四神四獣鏡
・天王日月獣文帯三神三獣鏡
※いずれも三角縁

が見つかっている。

このほか、
・吾作銘四神四獣鏡
・日月獣文帯六神四獣鏡
日日日全獣文帯三神三獣鏡
※いずれも三角縁

が出土している。

この石塚山古墳出土の鏡の同茫鏡が
・福岡県(御陵古墳・原口古墳)
大分県(赤塚古墳)
岡山県(車塚古墳)
京都府(椿井大塚古墳)
奈良県(新山古墳)
などで見つかっている。

■宇原神社
石塚山古墳の近くに宇原神社がある。
この宇原神社は元々この古墳の西側、後円部の付近にあったとされる。

そのため宇原神社の起源は古墳と同じくらいの古さがあり当時は社殿はないが、神域であったとされている。

宇原神社のサイトでは石塚山古墳から出土した7面の鏡(いずれも三角縁神獣鏡のタイプ分けが行われている。

それによると「三角縁」と「神獣」が描かれている場合が「三角縁神獣鏡」であり文様、神・獣の数、銘のある漢字などによりパターンがわかれている。
↓は宇原神社、三角縁神獣鏡、石塚山古墳から出土した7面の鏡のタイプ分けを行っている

uhara-jinja.jp

なお、この宇原神社では
・左殿:彦火々出見尊(ひこほほでみのみこと)
・正殿:彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊(ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)
・右殿:豊玉姫(とよたまひめのみこと)
が祀られている。
↓は宇原神社、その由緒のページ

uhara-jinja.jp

■2.赤塚古墳大分県
所在は大分県宇佐市
大分県の川部・高森古墳群」の回で示した古墳。

形式は前方後円墳
大きさは全長57.5m
築造は3世紀末。
九州最古の前方後円墳とされる。

副葬品の中で鏡は下記が出土。
三角縁神獣鏡:4面
・三角縁龍虎鏡:1面

このうち、三角縁神獣鏡
・日月天王三神三獣鏡:2
・天王日月四神四獣鏡:1
・唐草文帯二神二獣鏡:1
とされる。
大分県の川部・高森古墳群にて赤塚古墳を取り上げた回

shinnihon.hatenablog.com

■3.竹島御家老屋敷古墳山口県
所在は山口県周南市竹島(私有地)

過去記事にて魏の正始元年(240年)の鏡が発見された古墳としても取り上げた。

古墳築造は4世紀前半。
形状は前方後円墳
大きさは全長56m。
後円部の中央に竪穴式石室がある。

出土品の中に3つの鏡がある。

魏でつくったとされる、
・正始元年銘三角縁階段式神獣鏡
・天王日月四神四獣鏡
の計2面

呉でつくったとされる、
劉氏作神人車馬画像鏡:1面
が発見されている。
↓過去記事、魏の正始元年の鏡が発見された古墳として竹島御家老屋敷古墳を扱った回

shinnihon.hatenablog.com

■4.備前車塚古墳岡山県
所在は岡山県岡山市中区四御神・湯迫。
形式は前方後方墳
築造は古墳時代初期。
大きさは墳丘長48.3m。

埋葬は竪穴式石室。
内部に割竹形木棺がある。
銅鏡が13面出土。
うち11面が三角縁神獣鏡で「天王日月」の銘の入った鏡が一面、出土しているとされる。

11面のうち8種9面は京都府の椿井大塚山古墳から出土した鏡をはじめとする九州地方から北関東地方の、多くの古墳から出土した鏡と同笵鏡とされる。
↓はwikipedia備前車塚古墳

ja.wikipedia.org

■5.椿井大塚山古墳(つばいおおつかやまこふん、京都府)
所在は京都府木津川市山城町
過去記事にて福岡の那珂八幡古墳を紹介した際にも紹介。

形状は前方後円墳
築造は3世紀末。
大きさは墳丘長175m。
竪穴式石室、内部に割竹型木棺が存在。
銅鏡が36面以上見つかっている。
天王日月の文字が入っているのは「唐草文帯四神四獣鏡」とされる。
↓は過去記事、椿井大塚山古墳が登場した回

shinnihon.hatenablog.com

■6.花野谷1号墳(はなのたに1ごうふん、福井)
所在は福井県福井市花野谷町。
築造は3世紀末から4世紀初め頃。
形式は円墳。
大きさは直径約20m。
出土品に
三角縁神獣鏡
・勾玉
・管玉
・ガラス小玉
などがある。

花野谷町の山の上にあった花野谷1号墳から見つかった三角縁神獣鏡を再現したレプリカがある。
それによれば「天王」「日月」の文字が入っているとされる。
↓は福井市立郷土歴史博物館
調べ学習のためのページ

■7.新山古墳奈良県
所在は奈良県広陵町
馬見古墳群のひとつ。
形式は前方後方墳
大きさは墳丘長126m。
築造は4世紀前半。

埋葬は竪穴式石室、内部に組合式石棺がある。
出土品に銅鏡34面などがある。
その中に直弧文鏡、三角縁神獣鏡(9面)がある。

先述のとおり、石塚山古墳と同笵鏡の鏡が出土。
宮内庁推定により被葬者は第25代・武烈天皇と推定されている。
↓はwikipedia、新山古墳

ja.wikipedia.org

■8.佐味田宝塚古墳奈良県
所在は奈良県北葛城郡河合町。
こちらも馬見古墳群のうちのひとつ。
形式は前方後円墳
大きさは墳丘長111.5m。
築造は4世紀末~5世紀初頭。
馬見地域の最初の前方後円墳とされる。

墳頂から三角縁神獣鏡破片が、裾からは円筒埴輪が出土している。
出土品の中に銅鏡、約36面がある。
その中には家屋文鏡、直径22.9cmがある。
埋葬者の住んでいた建物(家屋)と考えられている。

下記によれば三角縁・天王日月・唐草文帯四神四獣鏡が出土している。
wikipedia、佐味田宝塚古墳、家屋文鏡の画像が掲載されている

ja.wikipedia.org

東京国立博物館 / 画像検索 、三角縁・天王日月・唐草文帯四神四獣鏡の画像の掲載あり
C0073068 三角縁・天王日月・唐草文帯四神四獣鏡 - 東京国立博物館 画像検索

■9.円満寺山1号古墳岐阜県
所在は岐阜県海津市南濃町
形式は前方後円墳
築造は4世紀中期から後半期と考えられている。
埋葬は竪穴式石室がある。
副葬品に
・鏡:3面
・直刀
・鎗
・鉄斧
・尖頭器等
が出土。
鏡のうちひとつは三角縁天王日月唐草文帯二神二獣鏡。
↓は岐阜県博物館、三角縁天王日月唐草文帯二神二獣鏡の写真あり
岐阜県博物館|けんぱくデジタル展示室

■10.上平川大塚古墳静岡県
所在は静岡県菊川市
築造は4世紀後半と推定されている。
三角縁で、天王日月の銘が入った、
 ・獣文帯同向式神獣鏡(じゅうもんたいどうこうしきしんじゅうきょう)
が見つかっている。
なお、大正時代まで上平川大塚1号墳があったが消失してしまった。
↓は文化遺産オンライン、上平川大塚古墳から出土した鏡が掲載

bunka.nii.ac.jp

■11.白山古墳(神奈川県)
神奈川県川崎市幸区南加瀬に存在した古墳。
形式は前方後円墳
大きさは全長87m。
築造時期は4世紀後半。
出土品の中に三角縁神獣鏡、珠文鏡、刀身、剣身などがある。
三角縁神獣鏡は三角縁天王日月四神四獣鏡とされる。
椿井大塚山古墳出土のものと同笵鏡。

■12.森将軍塚古墳(長野県)
所在は長野県千曲市屋代。
形式は前方後円墳
大きさは墳丘長約100mの古墳で長野県で最大。
築造は4世紀中頃。
石室からは三角縁神獣鏡の破片が出土。
「天王日月」の文字がある。
↓はgooglemap、森将軍塚古墳

maps.app.goo.gl

■長野県千曲市倉科・大日堂園地の万葉歌碑
森将軍塚古墳の森将軍塚古墳館から2.2kmほどの場所に長野県千曲市倉科・大日堂園地の万葉歌碑がある。

この大日堂に万葉歌碑が残っている。
推定で万葉集の成立した759年頃の建立とされる。

その歌碑の内容は次の通り。

人皆の 言(こと)は絶ゆとも 
埴科(はにしな)
石井(いしい)の手児(てご)が 言(こと)な絶えそね

その意味は、
世の中の 
すべての人の言い伝えが 
忘れられても
埴科の 
石井の美しい乙女(手児=手児奈で万葉の美女とされる)の言い伝えは
どうか絶やさないで欲しい

とされる

現在は2003年に更埴市(こうしょくし)上山田町戸倉町が合併して千曲市となった。
古くは更埴市は埴科(はにしな)と呼ばれていた。

なお森将軍塚古墳のある長野県千曲市屋代は
新潟県上越市、そしてヒスイの産出地である糸魚川市の南方
にあたり、
・南西には安曇市
がある。

安曇市豊科近代美術館とは48.1kmほどの距離。
さらにこの美術館から諏訪湖までは約40km、さらに約10km進むと諏訪大社がある。
↓はgooglemap、大日堂

maps.app.goo.gl

■まとめ
古い順、西から順に並べると

・赤塚古墳大分県
 築造は3世紀末

備前車塚古墳岡山県
 築造は古墳時代初期

・椿井大塚山古墳(京都府)
 築造は3世紀末

・花野谷1号墳(福井)
 築造は3世紀末から4世紀初め頃。

竹島御家老屋敷古墳山口県
 築造は4世紀前半

・新山古墳奈良県
 築造は4世紀前半

円満寺山1号古墳岐阜県
 築造は4世紀中期から後半期

・森将軍塚古墳(長野県)
 築造は4世紀中頃

・上平川大塚古墳静岡県
 築造は4世紀後半

・白山古墳(神奈川県)
 築造時期は4世紀後半

・石塚山古墳(福岡県)
 築造は4~5世紀

・佐味田宝塚古墳奈良県
 築造は4世紀末~5世紀初頭

天王日月の三角縁神獣鏡の分布は九州から関東、そして長野にまで広い地域に及ぶ。
また、

・赤塚古墳大分県、椿井大塚山古墳(京都府)備前車塚古墳岡山県古墳時代初期、3世紀末頃までに建造、そして天王日月の三角縁神獣鏡も被葬者と埋葬された。

■感想
ヤマトタケルの東征の影響が色濃く残っているように思う。
九州から出発、瀬戸内海を陸路、海路を経て奈良、そして関東へと進んでいく。

・長野県、千曲市倉科・大日堂園地の万葉歌碑のメッセージとは。この謎が解ければ古代史の謎のも解けるかもしれない。

■注:三角縁神獣鏡の分類

下記wikipedia三角縁神獣鏡にて分類がなされている。しかし他サイトや文献をあたると三角縁神獣鏡で天王日月の銘のあるものは他にもある。
参考:三角縁神獣鏡 - Wikipedia

三角縁神獣鏡である場合、それに寄せられ、細分化できていないことがあるよう
参考:「三角縁神獣鏡の二・三の問題について / 西村俊範」

https://core.ac.uk/download/pdf/80559017.pdf

・なお、画文帯神獣鏡に「天王日月」の銘がある場合あり。
↓は文化遺産オンライン、画文帯神獣鏡

bunka.nii.ac.jp

<参考>
円満寺山古墳 | 海津市
川部・高森古墳群 - Wikipedia
菊川市、上平川大塚1号墳が取り上げられている資料(PDF)
https://www.city.kikugawa.shizuoka.jp/shakaikyouiku/dokidokituusinn/documents/dokidoki3.pdf
東京大学考古学研究室 / 三角縁神獣鏡の銘文字形分析-編年と製作工人-
埴科古墳群 - Wikipedia