シン・ニホンシ

日本の歴史を新しい視点でとらえ、検証し、新しい未来を考える

48.日本人の国民性を研究したルース・ベネディクトの「菊と刀」

菊と刀」はアメリカ人文化人類学者のルース・ベネディクトが記した日本の文化を分析した書籍。齋藤孝氏はこの本を10代のときに読んだという。そしてこう思った。「こういうものを書く研究者のいる国と戦争をしてはいけない」。
日本人はさまざまに思想する、思考する、考えてないわけではない。でも何を考えているか第三者からみるとよくわからない。
そのバックボーンとなる文化およびその文化的思想を分析し、体系化し、文章で日本人の国民性を明かしたのが「菊と刀」である。
次の流れでみていく。
ルース・ベネディクト
・戦時情報局
菊と刀の背景
・ジョンエンブリー(1908年- 1950年)
菊と刀の研究課題
・分析軸
・分析結果
・GHQが占領時に打ち出した政策

ルース・ベネディクト
次のような人物である。
アメリカの文化人類学者(1887年 - 1948年)
・著書に「菊と刀」「文化の型」などがある
コロンビア大学で人文学の博士号を取得
・1936年にはコロンビア大学助教授に就任
アメリカの第二次世界大戦に参入するにあたり、アメリカ軍・戦争情報局からの依頼で1944年6月に日本研究の仕事を委嘱される
・1946年、調査結果をもとに代表作「菊と刀」を出版、 日本語訳は1948年に出版

■戦時情報局
ルース・ベネディクトが仕事を委嘱された戦時情報局とは次のような組織である。
アメリカ合衆国の諜報・プロパガンダ機関
第二次世界大戦期の1941年にルーズベルト大統領が設置した
・戦後の1945年トルーマン大統領令によって解散した
アメリカ合衆国情報局(USIA)に移管された

菊と刀の背景
菊と刀とは次の背景で生まれた調査報告書と考えられる。
・戦時情報局からの依頼で行われた日本人調査結果を書籍化したもの
・戦時情報局依頼時点では日本との戦争の見通しが3年、10年、100年続くか等の意見もあった中で日本の国民性を理解したかった
文化人類学で得た知見や分析力をもとに日本人を研究した書
・日本との交戦中のため実地調査はできなかった
・参考に次の情報などを利用
 - 戦時中にアメリカに住んでいた日本人からの証言
 - ジョン・エンブリーの「須恵村」を資料として利用

■ジョンエンブリー(1908年- 1950年)
須恵村」を書いたジョン・エンブリーは次のような人物。
・1935年から1936年まで日本でフィールドワークを実施
・フィールドワーク前に2度の日本での訪問経験あり
・フィールドワークは熊本県須恵村(現・あさぎり町)へ、博士論文研究の一環
・1937年から1941年までハワイ大学で人類学の教授を務めた
・1945年、ルースベネディクトの前に「日本国家」を著、日本語訳はない

菊と刀の研究課題
菊と刀の研究テーマは次の通り。
・敵の性情を知るため日本人がどんな国民であるかを解明
・軍事作戦を実行する際の日本人に対する行動を理解
・最後の一人まで徹底抗戦するような国民に対しどのように決意を弱めさせればいいか
・国民性を報告する際「しかしまた」の連発が必要となるような矛盾をはらむ
 しかしまた の報告例
 <マインド>
 ・忠実で寛容、しかしまた不忠実で意地悪
 ・類例のないくらいに礼儀正しい国民、しかしまた不遜で尊大
 ・他人の評判を気にかけて行動する、しかしまた恐ろしい良心を持っている

 <向上心、主義>
 ・この上なく固陋(がんこ、狭い)な国民、しかしまたどんなに新奇な事柄にも容易に順応
 ・西欧の学問について熱中する国民、また同時に熱烈な保守主義である

 <統制>
 ・従順な国民、しかしまた上からの統制になかなか従わない
 ・ロボットのような訓練をする、一方で兵士たちはなかなか命令に服さず公然と反抗する場合がある

■分析軸
 「階層社会」や「恩・義理」「忠・孝」などの軸で分析した。

■分析結果
封建社会を経ている、一・二人称が複雑なのは名残
・恩や義理
 - ルーツ:封建社会を経た日本の文化
 - 会計による負債、借りに近い

・階層社会が存在
 - 階層社会には階級制度、身分制も含む
 - 関係性の中で変化し、様々なパターンを生む
 一人・二人称の変化パターン

  アメリカ:IとYOU
  日本:わたし、俺・拙者、あなた、君・・・などと何十パターンと存在。
   性別や役割によって呼称が変わる。それは階層社会で立場や役割によって呼び方が変わってきた。時代も変遷しても残り続けた。 例:拙者

 ・恩・義理の発生とタテとヨコ
  - 恩は主君とのタテの主従の関係性において発生
  - 義理は横の関係性において発生 例:同僚、目下の人
  - ただし、恩はタテのみならず、ヨコにも発生する
   例:自分に都合をつけてもらったり、優遇してもらったりなど
     大きなインパクトをもたらした場合など。

 ・西洋と日本の比較
  西洋:
  - 罪の文化
  - 内面に善悪の絶対の基準をもつ

    日本:
  - 恥の文化
  - 内面に確固たる基準を欠く
  - 他者からの評価を基準として行動が律されている
  - 美を愛好し、菊作りを愛する一方で 刀を崇拝、武士に最高の栄誉を帰する国民
  - 菊とは、見栄え、プライドの象徴
  - 刀とは、錆(さび)を出さないために精神を磨き続ける心の象徴

■GHQが占領時に打ち出した政策
 GHQによる民主化政策では、日本のタテの関係を崩す戦略、水平展開させる政策がとられた。例えば財閥の解体など。

<参考>
・古典が最強のビジネスエリートをつくる 齋藤孝
菊と刀 ルースベネディクト 講談社学術文庫
・まんがで読破 菊と刀
ルース・ベネディクト - Wikipedia
菊と刀 - Wikipedia
菊と刀 / ルース・フルトン・ベネディクト/長谷川
ジョン・エンブリー - Wikipedia
戦時情報局 - Wikipedia